ぬいぐるみとしゃべりたい🧸

「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」大前粟生・著

この本が好きで、おすすめの本を聞かれた時に必ずタイトルをあげてしまうのに、

内容や好きなところがうまく説明できなくて「とりあえず読んで！！」となってしまっていた。

私の説明がうまく伝わらず、「何も起こらない話」と思われてしまうのが心配だった。

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主人公の大学生は、「人を好き」という気持ちはわかるけれど、「恋愛対象として好き」がわからない。

告白してきた子をかわいいとは思うけれど、友だちとしての好きだと気づく。

正直に答えると相手を傷つけてしまう。相手を傷つけてしまったことに自分も傷つく。

恋愛はみんながするもの。みんなが楽しんでいるのに、自分にとってはつらいもの。自分だけがずれているように感じてしまう。

「恋愛をするのがあたりまえ」という社会で、「友だちとして好き」は勝手に別の意味を与えられる。主人公の「友だちとして好き」という気持ちも、相手にとっては「振られた」でしかなくなってしまう。

私はマンガなどで、「一生友だちでいようね」と好きな相手に言われてがっかり、

という場面があまり好きではない。

恋愛や結婚が関係性の最終形でそれ以外を残念がる、という風潮に疑問を持っていた。

恋愛・婚姻関係ではない相手と一緒に生きてはいけないのか。

名前のつかない関係は意味のないものなのか。

恋愛を否定したいのではなく、恋愛だけが目指すべき関係性という規範のようなものに居心地の悪さを感じる。

主人公の所属するサークルのメンバーは、つらいことがあった時、ぬいぐるみと話す。

誰かに話を聞いて欲しいけれど、相手がつらくなったり傷ついてしまうのが怖い。

ぬいぐるみは何の感情もなくただ一緒にいてくれる存在で、何かを肯定してくれることはないけれど、それが拒否にもならない。

人と関わる中で、悪意がなくても傷つけられてしまったり、無意識に傷つけてしまうことは起きてしまう。ぬいぐるみと話す間は少しだけでも楽でいられる。

登場人物とぬいぐるみのように、ただ一緒にいられる関係性があったら良いのに、と思ってしまう。

七森は木や石や幽霊みたいになりたい。いてもいなくてもいい。

主人公とは少し意味が違うけれど、私も同じことを思ってしまう。

望んだわけではない属性や勝手なレッテルで、何でも決めつけられてしまうことがつらい。見られたり、品定めされたりする存在から辞退したい。ただ存在しているものになりたい。

それぞれがただ存在していたり、干渉し合わず一緒にいたりするのはダメなんだろうか。

つらいことや許せないような出来ごとが「ふつう」の酷い世の中だけど、

主人公たちは大丈夫じゃないなりに支えあう。

ふたりで大丈夫じゃないから、大丈夫じゃないけど大丈夫って、ふたりで思うことができた。

名前がはっきりしない関係でも一緒にいて良いんじゃないか、こんな人たちも居てもいいんだ、と思わせてくれた。

「あたりまえ」が多すぎる世界で、「あたりまえ」の枠から外れた人たちがこの後も生きていく物語に勇気をもらえた。